脂肪注入の効果を最大限に引き出し、理想の結果を得るためには、手術後の過ごし方が極めて重要になります。
移植された脂肪細胞は非常にデリケートな状態にあり、体内で新しい血管から栄養を受け取り「生着」するまでの期間のケアが、最終的な定着率を大きく左右します。
特に術後3ヶ月間の行動が結果を決めると言っても過言ではありません。
この記事では、脂肪注入の定着率を確実に引き上げるために、術後の生活で実践すべき5つの重要な秘訣と、避けるべきNG行動を解説します。
資格・所属
- 日本形成外科学会専門医
- コンデンスリッチファット(CRF)療法認定医
- VASER Lipo認定医
- Juvederm Vista 認定医
- 乳房再建用エキスパンダー/インプラント実施医師
- 日本形成外科学会所属
- 日本美容外科学会(JSAPS)所属
【略歴】
ご自身の脂肪を活用した豊胸術や顔・お尻などへの脂肪注入、そして脂肪吸引によるボディメイクを専門とする形成外科専門医。獨協医科大学医学部卒業後、獨協医科大学病院形成外科・美容外科入局。足利赤十字病院形成外科、獨協医科大学埼玉医療センター 形成外科学内助教、THE CLINIC大阪院・名古屋院の副院長を経て2024年、名古屋にARIEL .BUST.CLINICを開院。
ARIEL .BUST.CLINICは、ご自身の脂肪を活用した脂肪注入(豊胸・顔・お尻など)を得意とする名古屋のクリニックです。それぞれの体型や悩みに応じた専門性を活かしたご提案をしており、脂肪採取(脂肪吸引)から注入、傷跡や傷のケアに至るまで、形成外科専門医としての知識と技術を評価いただき、全国から患者様にお越しいただいています。
ボディメイクは決して焦る必要のないものです。このサイトでは脂肪注入に関連する多くの記事を書いていますので、すぐに施術を決めることはせず、まずはぜひ患者様自身で知識をつけた上でご希望のクリニックへ相談されるようにしてください。
脂肪注入の定着率を理解する 定着の鍵は「生着」にある
脂肪注入の定着率は、注入した脂肪細胞が体内で生き残り、その部位の組織の一部として永続的に留まる割合を指します。
この定着の鍵となるのは、移植された脂肪細胞が周辺組織から酸素や栄養を受け取り、自らの血流を確立する「生着」です。
脂肪注入の定着率とは何か
定着率とは、注入した脂肪の量に対して、最終的に体内に残る脂肪の量のパーセンテージです。
一般的に、脂肪注入の定着率は施術方法や使用する脂肪の質、注入部位、そして患者さんの体質によって大きく異なりますが、平均で50%から80%程度とされます。
この数字はあくまで目安であり、定着を最大限に高めるためには、術後の適切なケアが不可欠です。
注入直後はむくみや腫れによって一時的にボリュームが多く見えますが、生着しなかった脂肪細胞が体内に吸収されることで、術後数ヶ月をかけてボリュームが落ち着きます。
最終的な定着が確認できるのは、おおよそ術後3ヶ月から6ヶ月後です。
定着を左右する3つの要素
脂肪の定着を左右する要素は、主に「脂肪の質」「医師の技術」「術後の環境(患者のケア)」の3つに分けられます。
このうち、患者さん自身がコントロールできるのが「術後の環境」です。良質な脂肪細胞は酸素や栄養に恵まれた環境でなければ生き残れません。
1. 注入する脂肪の質と処理方法
採取した脂肪から不純物や麻酔液、血液などを除去し、純度の高い良質な脂肪細胞のみを使用することが定着率向上の出発点です。
遠心分離や濃縮技術を用いて、健康で元気な脂肪細胞を選別する施術が定着率を高めます。
2. 医師の注入技術
脂肪を注入する際、一度に大量に注入すると中心部の脂肪に栄養が届かず壊死する原因となります。
脂肪を微細な粒状にして、何層にもわたって分散させながら、少量ずつ丁寧に注入する技術(マイクロインジェクション)を用います。
その結果、脂肪細胞が周囲の組織と接触する面積が増え、血流が確保されやすくなります。
3. 術後の適切なケア
術後の安静、栄養管理、患部への刺激回避など、患者さん自身が行うケアが定着率に最も直接的に影響します。
特に術後初期の血流と圧迫の状態は、脂肪細胞の生死に直結します。
定着率を高めるための要素
| 要素 | 内容 | 影響 |
|---|---|---|
| 脂肪の質 | 純度の高い濃縮脂肪の使用 | 生着に必要な健康な細胞を確保 |
| 注入技術 | 多層への分散注入(マイクロインジェクション) | 脂肪細胞への栄養供給経路を確保 |
| 術後ケア | 患部の安静と圧迫回避、禁煙 | 生着を妨げる物理的・生理的要因の除去 |
脂肪注入が定着するまでの期間
脂肪細胞が生着し、定着が完了するまでには時間を要します。この期間を正しく理解し、慎重に行動することが重要です。
一般的に、注入された脂肪細胞が周辺組織の血流から栄養を受け取り始める初期段階が術後1週間から2週間です。
この期間に生き残った細胞が、本格的に組織として確立し始めるのが術後1ヶ月までです。
そして、注入部位の腫れやむくみが完全に引き、定着した脂肪細胞のボリュームが安定し、最終的な結果として確認できるのが術後3ヶ月から6ヶ月とされています。
この3ヶ月間は、特に定着率を上げる術後の過ごし方を意識して生活してください。
定着率を上げるための術後の「過ごし方」5つの秘訣
脂肪注入の定着率を最大限に高めるには、デリケートな移植脂肪細胞を保護し、生着しやすい環境を整えることが重要です。
次に紹介する5つの秘訣を守り、質の高いアフターケアを実践してください。
秘訣1 患部を過度に圧迫しない
移植された脂肪細胞は、外部からの圧力に非常に弱いです。過度な圧迫は血流を妨げ、脂肪細胞が栄養を受け取れなくなり、壊死する主要な原因となります。
圧迫による定着率低下のリスク
注入部位が圧迫されると、その部分の毛細血管が収縮したり潰れたりし、酸素や栄養が届かなくなります。
特に胸への脂肪注入の場合、ワイヤー入りのブラジャーや締め付けの強い下着は厳禁です。
顔への注入の場合も、うつ伏せ寝や頬杖をつく行為は避けてください。寝る際は、注入部位が下にならないよう、仰向けを意識することが大切です。
推奨される下着や寝姿勢
豊胸術の場合、術後数ヶ月はノンワイヤーで締め付けがゆるやかなブラジャー、またはカップ付きのキャミソールなど、優しくバストを支えるものを着用してください。
寝るときは、枕を使って体を安定させ、注入部位に体重がかからないように工夫してください。
秘訣2 栄養バランスの取れた食事を意識する
脂肪細胞が生着するには、体全体の栄養状態が良好であることが必要です。極端な食事制限や偏食は、脂肪細胞への栄養供給を妨げ、定着率を下げます。
脂肪細胞が求める栄養
特に重要なのは、細胞膜の材料となる良質なタンパク質、そして新しい血管を作るために必要なビタミンやミネラルです。
また、過度なカロリー制限は体が飢餓状態にあると誤認し、注入した脂肪細胞までもエネルギーとして消費しようとするリスクを高めます。
一時的に体重を維持、もしくは少し増やす程度のカロリー摂取を心がけることが、脂肪の定着を助けます。
体重の維持を心がける
術後すぐに極端なダイエットを始めると、体内に定着しようとしている脂肪細胞まで小さくなってしまい、結果的にボリュームダウンにつながります。
定着が安定する術後3ヶ月間は、体重の大きな変動を避け、安定した食生活を送ることが、脂肪注入定着率を上げる術後の過ごし方として非常に重要です。
秘訣3 十分な休息と睡眠をとる
体をしっかりと休ませることは、傷の回復と脂肪細胞の生着に欠かせません。休息と睡眠は、体の修復機能を最大限に引き出します。
休息がもたらす効果
術後、体は注入部位の修復に多くのエネルギーを使います。十分な休息を取ることで、回復に必要な血流が安定し、免疫機能も正常に働きます。
特に術後数日間は可能な限り安静に過ごし、横になって体力の回復を図ることが大切です。無理をして血圧が上がるような活動を避けてください。
質の高い睡眠の重要性
睡眠中には、組織の修復や再生を促す成長ホルモンが多く分泌されます。
質の高い睡眠を確保することは、移植された脂肪細胞が周囲の組織にしっかりと結合し、新しい血管を取り込む手助けとなります。
規則正しい生活リズムを心がけ、睡眠時間を十分に確保してください。
秘訣4 患部の温度を適切に保つ
脂肪細胞は極端な温度変化に弱く、特に冷やしすぎると血流が悪くなり、生着が妨げられます。術後の腫れに対しては適切な冷却が必要ですが、その方法に注意が必要です。
過度な冷却が定着に与える影響
腫れが気になる場合、冷やすことで炎症を抑える効果がありますが、冷やしすぎると血管が過度に収縮し、脂肪細胞への酸素や栄養の供給がストップしてしまいます。
これは定着率低下に直結する危険な行為です。冷却は、患部を気持ちよく感じる程度の優しさで、短時間にとどめてください。
術後初期の入浴制限
術後初期(通常1週間程度)は、長時間の入浴やサウナなど、体温が急激に上がるような行動も控える必要があります。過度な血行促進は、腫れや内出血を悪化させる原因になるからです。
シャワーは、医師の許可が出た後、短時間で済ませるようにしてください。
秘訣5 医師の指示に従いマッサージは控える
術後のマッサージや揉み込みは、定着を目指す脂肪細胞にとっては大きなダメージとなります。自己判断でのマッサージは絶対に避けてください。
マッサージが脂肪細胞を破壊する理由
注入されたばかりの脂肪はまだ周辺組織と結合しておらず、非常に不安定です。
この時期に強い圧力を加えたり、揉み込んだりすると、せっかく注入した脂肪細胞が物理的に壊れたり、意図しない場所に移動してしまったりする可能性があります。
また、生着のために新しく形成され始めたデリケートな毛細血管を損傷させ、栄養供給を妨げることにもつながります。
刺激を避ける期間
脂肪が安定して定着するまでの期間(概ね術後3ヶ月間)は、注入部位への直接的なマッサージや、超音波治療などの施術を控えるのが鉄則です。
医師が特別に指示した場合を除き、「触らない」「圧迫しない」を徹底することが、定着率を上げるための最も単純で重要な行動です。
脂肪注入の定着率を下げる「NG行動」とリスク
せっかく良質な脂肪を注入しても、術後の過ごし方次第でその効果は大きく損なわれてしまいます。
定着率を下げてしまう、特に注意が必要なNG行動とそのリスクについて解説します。
NG行動1 激しい運動や飲酒・喫煙
これら3つの行動は、体の血流環境や細胞の酸素供給状態に直接悪影響を与え、定着率を著しく低下させる要因です。
喫煙(タバコ)が定着に与える致命的な影響
喫煙は、脂肪注入の定着率において最大の敵の一つです。タバコに含まれるニコチンには、強力な血管収縮作用があります。
血管が収縮すると、注入された脂肪細胞へ送られる酸素や栄養が著しく不足し、脂肪細胞は生着できずに壊死してしまいます。
術後、高い定着率を目指すのであれば、少なくとも定着が安定するまでの3ヶ月間、できれば永続的に禁煙を継続する必要があります。
飲酒と激しい運動
過度な飲酒は、血行を不必要に促進させたり、体が脱水状態になったりすることで、腫れや内出血の悪化、回復の遅延につながります。
また、激しい運動は血圧を急激に上昇させ、注入部位に負荷をかけ、脂肪細胞が周囲の組織から剥がれるリスクを高めます。
術後1週間程度は安静を保ち、その後もジョギングや筋力トレーニングのような激しい活動は避け、ウォーキングなど軽い運動から徐々に再開してください。
NG行動2 患部の急激な冷却や温め
温度変化に対する脂肪細胞の脆弱性を理解し、生活環境を一定に保つことが定着を助けます。
過度な低温環境を避ける
前述の通り、冷やしすぎは血流を悪化させ、脂肪の生着を妨げます。特に冬場などは、注入部位を寒風に長時間さらしたり、寒い場所に長時間滞在したりすることは避けるべきです。
体が冷えすぎないよう、適切な温度で過ごすことが大切です。
サウナ・長風呂など過度な加温を避ける
一方、サウナや長時間の入浴、ホットヨガなど、体温を急激に上げる行為も、術後初期は避けてください。
血流を過剰に促し、注入部位の炎症を悪化させたり、腫れを長引かせたりする原因となります。
定着が安定するまでの期間は、快適な室温と穏やかな体温を維持するように心がけてください。
定着率を下げるNG行動の目安期間
| 行動 | 時期の目安 | 推奨される理由 |
|---|---|---|
| 激しい運動 | 術後3週間 | 血圧上昇と脂肪への負荷回避 |
| 喫煙 | 術後3ヶ月以上 | 血管収縮による栄養不足防止 |
| サウナ・長風呂 | 術後1ヶ月 | 血行促進による炎症悪化の防止 |
NG行動3 極端なダイエットや偏食
脂肪注入は、すでに体内に取り込まれた脂肪細胞を活かす治療です。注入後の栄養管理は、単なる体重管理以上の意味を持ちます。
ダイエットが定着率に与える悪影響
極端なカロリー制限や糖質制限による急激な体重減少は、体が生存のために体内の脂肪をエネルギーとして消費し始める原因となります。
このとき、生着しようとしている注入脂肪細胞も例外なくターゲットとなり、小さくなったり吸収されたりして定着率が低下します。
特に、脂肪が定着する術後3ヶ月間は、急激な体重減少を避けてください。
栄養不足による血流の悪化
栄養が不足すると、体は血流を維持するために必要なエネルギーや材料が不足し、結果的に血行が悪くなります。
血行が悪化すれば、脂肪細胞への酸素や栄養の供給が滞り、生着が困難になります。
バランスの取れた食事を意識し、体全体の健康状態を保つことが、注入した脂肪を守ることにつながります。
術後経過に合わせた定着率向上のためのアクション
脂肪注入後のダウンタイムは、時期によって脂肪細胞の状態や回復の度合いが異なります。それぞれの時期に合わせた適切なケアを行うことが、定着率を高める鍵となります。
術後早期(直後〜1週間)の注意点
術後早期は、注入部位の腫れや痛みが最も強く現れる時期であり、移植された脂肪細胞が最もデリケートで不安定な時期です。
この期間の過ごし方が、定着の成否を分けます。
徹底的な安静の維持
手術当日から3日間は、可能な限り安静に過ごしてください。
血圧が上昇するような活動(重いものを持つ、階段の上り下り、激しい家事など)は避け、注入部位に負荷をかけない姿勢で過ごします。
安静にすることで体が回復に集中でき、脂肪細胞の生着に必要な安定した血流を確保できます。
衛生管理と冷却の実施
医師の指示に従い、施術部位を清潔に保ってください。
腫れや内出血が気になる場合は、冷却することが推奨されますが、必ずタオルなどで包んだ保冷剤を使い、冷やしすぎないように注意してください。
患部を優しく包むように冷やすのが適切な方法です。
術後中期(1週間〜1ヶ月)の留意点
腫れや痛みが徐々に落ち着き始める時期ですが、脂肪細胞はまだ生着途中にあります。活動レベルを少しずつ戻しつつも、引き続き定着を妨げる行動を避ける必要があります。
軽い運動の再開と水分補給
腫れが引き始めたら、血行を促すために、軽い散歩やストレッチなど、低負荷の運動から再開してください。
適度な運動は代謝を良くし、むくみの解消にも役立ちます。また、十分な水分補給は代謝を助け、注入した脂肪細胞への栄養供給をスムーズにするために重要です。
圧迫を伴う行動の継続的な回避
この時期も、マッサージやワイヤーブラの着用、うつ伏せ寝といった、注入部位に圧力をかける行動は継続して避けてください。
脂肪細胞は定着に向けて組織化を進めている段階であり、強い刺激によって壊れてしまうリスクが残ります。
術後安定期(1ヶ月以降)にできること
術後1ヶ月を過ぎると、腫れはほとんど引き、脂肪のボリュームも落ち着き始めます。活動制限は緩和されますが、定着を最終確認するまでのケアを怠らないことが大切です。
禁煙・体重維持の継続
定着の最終確認ができる術後3ヶ月までは、喫煙と極端なダイエットは厳禁です。安定した体重を維持し、栄養バランスの取れた食生活を続けてください。
この時期の安定が、最終的な定着率を確定させます。
経過観察と医師への相談
注入部位の形やボリュームに違和感がある場合は、自己判断せず速やかに医師に相談してください。
個人差はありますが、左右差やしこりなど、早期に対処が必要な問題があるかもしれません。定期的な検診を受け、経過を共有しましょう。
脂肪注入の定着を助ける栄養素と食事の工夫
「食べることも治療の一つ」と考え、積極的に定着を助ける栄養素を取り入れることで、脂肪細胞の生着環境を内側からサポートできます。
栄養は血流を通じて脂肪細胞に運ばれるため、血流改善も意識した食事を心がけましょう。
定着に必要な主要な栄養素
脂肪細胞の維持と、それを取り囲む新しい血管や組織の形成に必要な栄養素を意識的に摂ってください。
タンパク質
脂肪細胞自身や、生着に必要な新しい血管、コラーゲンなどの組織の材料となるのがタンパク質です。良質な肉、魚、卵、大豆製品などを毎食摂取してください。
ビタミンE
ビタミンEは血行を促進する作用があり、「若返りのビタミン」とも呼ばれます。血流が改善することで、脂肪細胞への酸素と栄養の供給がスムーズになり、定着を助けます。
不飽和脂肪酸(オメガ3系)
魚に含まれるDHAやEPAなどのオメガ3系脂肪酸は、炎症を抑え、血流を改善する働きがあるため、術後の回復をサポートします。細胞膜の構成要素としても重要です。
積極的に摂りたい食材とメニュー
これらの栄養素を豊富に含む食材を日々の食事に取り入れる工夫をしましょう。
- 良質なタンパク源(鶏むね肉、赤身肉、豆腐、納豆)
- 血行促進を期待できる食材(ナッツ類、アボカド、カボチャ、魚介類)
定着を助ける主要な栄養素と食材
| 栄養素 | 効果 | 代表的な食材 |
|---|---|---|
| タンパク質 | 細胞・血管の材料 | 鶏むね肉、卵、大豆 |
| ビタミンE | 血行促進、抗酸化 | ナッツ類、アボカド |
| オメガ3脂肪酸 | 抗炎症、血流改善 | サバ、サンマ、アマニ油 |
避けるべき食品と飲み物
定着率を下げるリスクのある食品や、回復を妨げる飲み物も存在します。これらは術後初期だけでも控えるようにしてください。
塩分の過剰摂取
塩分を多く摂取すると、体内に水分が溜まりやすくなり、むくみが悪化します。
術後の強いむくみは、注入部位の血流を妨げ、脂肪細胞への栄養供給を阻害する可能性があります。できるだけ薄味を心がけた食事にしてください。
加工食品やトランス脂肪酸
質の悪い脂質や添加物の多い加工食品は、体内で炎症を引き起こしやすく、回復を遅らせる可能性があります。
新鮮な食材を使い、手作りの料理で栄養を摂取することを推奨します。
術後のむくみ・腫れと定着率の関係
脂肪注入後のダウンタイムで必ず経験するのが、むくみや腫れです。これらの症状は一時的なものですが、過度な状態が続くと定着率に悪影響を与えるため、適切な対処が必要です。
むくみや腫れが起こる理由
むくみや腫れは、手術によって組織がダメージを受け、体液(リンパ液や血液)が一時的に滞留することで発生する、ごく自然な体の反応です。
体にとって異物である麻酔液や、ダメージを受けた細胞を排出しようとする防御反応の一環でもあります。
腫れのピークと持続期間
腫れは通常、術後2日から3日をピークに現れ、その後1週間から2週間程度をかけて徐々に引いていきます。
むくみは腫れよりも長く続き、完全に解消するまでに1ヶ月程度かかることが一般的です。
むくみが引くにつれて、注入部位のボリュームも落ち着き、定着した脂肪の輪郭が明確になってきます。
腫れやむくみを軽減する賢い対処法
むくみや腫れを軽減することは、見た目の回復を早めるだけでなく、定着率の維持にもつながります。
むくみはリンパや血液の流れが滞ることで起こるため、血流を穏やかに保ちながら、適切な循環を促すことが大切です。
- 適度な冷却を施す(冷やしすぎない)
- 枕やクッションで注入部位を高く保つ
- 塩分を控えた食事をする
むくみを助長するNG行動
過度な飲酒や長時間の立ち仕事、塩分の多い食事は、むくみを悪化させる原因となります。術後しばらくは、これらの行動を控え、安静と休息を優先してください。
むくみの解消を助ける行動
| 行動 | 理由 | 推奨度 |
|---|---|---|
| 軽い散歩 | 血流とリンパの流れを促進 | 高 |
| 高枕で寝る | 体液の滞留を防ぐ | 高 |
| マッサージ | 脂肪細胞を破壊し定着率を低下 | 低(NG) |
むくみ解消と定着率の相関性
むくみが解消に向かうということは、体内の水分バランスが整い、血流が正常に戻っていることを意味します。
このため、脂肪細胞が必要な栄養をスムーズに受け取れる環境が整い、生着が促進されます。
つまり、むくみを早く引かせるための適切なケアは、脂肪注入定着率を上げる術後の過ごし方として非常に重要な側面を持っているのです。
ただし、むくみを早く引かせようとして、注入部位を強く揉んだり圧迫したりすることは、脂肪細胞の破壊につながるため本末転倒です。
定着率に満足できないと感じたら医師に相談を
術後、ボリュームや形状の変化に不安を感じることがあるかもしれません。
しかし、定着には時間がかかるため、焦らずに経過を見守り、必要に応じて専門の医師に相談することが大切です。
定着率の個人差と見極めの時期
脂肪注入の定着率には、採取した脂肪の質、体質、そして術後の過ごし方など、さまざまな要因が関わるため、個人差が必ず生じます。
定着率が低いと感じても、術後1ヶ月や2ヶ月の時点では、まだむくみが残っていたり、生着しなかった脂肪が完全に吸収されていなかったりする場合があります。
最終定着の判断時期
最終的な定着率を判断できるのは、通常、術後3ヶ月から6ヶ月を経過した時点です。この時期を待たずに定着率が低いと判断し、次の処置を焦る必要はありません。
まずは医師が定めた検診スケジュールに従い、焦らずに待つことが大切です。
再注入や修正を検討するタイミング
術後6ヶ月を経過してもなお、目標とするボリュームに達しなかった場合や、左右差などの形状の修正が必要になった場合に、再注入を検討します。
再注入を行う際も、最初の注入時と同様に、脂肪の採取・処理方法、医師の技術、そして術後の丁寧なケアが重要になります。
最初の手術で定着率が低かった原因を分析し、対策を講じた上で次の一手を打つことが成功につながります。
修正術を検討する目安
| 状況 | 検討時期の目安 | 医師への相談内容 |
|---|---|---|
| ボリューム不足 | 術後6ヶ月以降 | 再注入の可否と次回の定着率向上策 |
| 明らかな左右差 | 術後3ヶ月以降 | 修正注入の計画と原因分析 |
| しこりの出現 | 術後の任意のタイミング | しこりの種類と治療法の検討 |
適切な相談の仕方
医師に相談する際は、感情的にならず、具体的な状況を冷静に伝えることが大切です。以下の情報を準備しておくと、スムーズに状況を把握してもらえます。
術後の経過を時系列で記録した写真やメモ、特に「腫れが最も引いたと感じた時期」「ボリュームの変化を感じた時期」など、具体的な情報を共有することで、医師も的確なアドバイスや次の治療計画を立てやすくなります。
不安な点は遠慮せずに伝え、納得のいくまで話し合ってください。脂肪注入は医師と患者さんが協力して行う治療です。
よくある質問
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